研究概要 |
本研究では色素体DNAと結合し核様体を形成するタンパク質が色素体としての形態ならびに機能分化においてはたす役割を明らかにすることを目的に研究を行った。本年度の成果は以下のとおりである。 1)光合成のみで生育できるタバコ緑色培養細胞より極めて純度の高い葉緑体核様体を調製し、さらにサウスウエスタン法によりDNA結合性のタンパク質を同定し、葉緑体DNA結合タンパク質cDNAを単離することに成功した。この葉緑体DNA結合性タンパク質(CND41)はN末端にhelix-turn-helix構造を取りうるリジンに富む領域を有する新規なDNA結合タンパク質であった。全長を含むcDNAを得たことにより、形質転換植物を用いた本CDN41の発現制御により本タンパク質の機能を直接的に解析することを試みた。先ず、植物体中での発現を抑制するアンチセンスベクターを構築した。さらに、このベクターを用いてタバコ植物体を形質転換し、形質転換体約40株を確立した。ついでにこれら形質転換体におけるCND41タンパク質量を測定し、CND41の蓄積が野生株に比べ1/3程度に低下している低CND41形質転換体を数株得た。これら低CND41形質転換体は野生株に比べ、茎長(節間長)が短い特徴を示した。現在、CND41の蓄積の低下とこの表現形質の相関についての検討を進めている。 2)大腸菌で発現したタンパク質を用い抗体を作成し、タンパク質レベルでのCND41の発現蓄積の制御機構の解析を行った。その結果、本タンパク質は光合成を活発に行う組織(緑葉)においてはその蓄積量が低下し、非光合成組織(茎)において多く存在していることが明らかとなった。また、培養細胞系でも培地に糖を含む場合にのみCND41が多量に蓄積することを認めた。一方、培地に塩(NaCl)を添加することにより、CND41の蓄積が著しく抑制されることが明らかとなった。さらに、CND41の蓄積が増加するとともに、葉緑体遺伝子産物であるRuBisCOLサブユニットタンパク質の蓄積が減少することを認めた。検討を進めた結果、CND41タンパク質の蓄積と葉緑体遺伝子転写産物量(rbsL,psbA,rRNA)には負の相関があることを認めた。
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