(研究目的)ヒト胃粘膜におけるヘリコバクター・ピロリ(Hp)感染は、慢性胃炎、消化性潰瘍のみならず胃発がんとも関連すると考えられている。本研究ではHp除菌前後の胃粘膜における発がんと関連した諸因子の変化について検討することを目的としており、今年度はその予備的検討を行った。(方法と結果)Hp除菌判定法に関する検討:除菌治療後の判定にHpのureAをターゲットとしたPCR法を併用し、治療1カ月後の時点で通常の方法でHp陰性と判断された症例の中にもPCR法ではHp陽性と判断される症例が少なくないことが明かとなった。これらの症例の少なくとも一部が臨床的にHp感染の再燃を来すものと考えられた。医原性Hp感染に関する検討:内視鏡を介する医原的なHp感染の可能性を検討するため内視鏡検査前にHp陰性であった症例を経過観察し、内視鏡検査後自覚症状的にも、また血清学的にもHp感染が起こっていないことを確認した。Hpサイトトキシン遺伝子の解析:Hpの菌体側の病原因子として重要なサイトトキシン遺伝子vacAの多型性についてPCR-RFLP法で解析し、各臨床分離株の間で著しい多様性があることが明かとなった。胃粘膜におけるケモカイン発現の解析:Hp感染胃粘膜における炎症反応の解析のため、胃粘膜でのケモカインの発現をRT-PCR法などで検討した。IL-8などのCXC型ケモカインだけでなく、MCP-1、RANTESなどのCC型ケモカインも高頻度に発現していることが明かとなった。(考案)本研究によってHp除菌治療評価に関する有用な情報が得られ、また胃内視鏡検査に伴うHp感染の危険性はほとんどないことが確認された。また、Hpの菌体側因子、Hp感染胃粘膜における慢性炎症病態の解析も進んできたので、これらの情報をもとに、実際に慢性胃炎でHp除菌を希望する患者の胃粘膜における諸因子の治療前後における変化についての検討に着手している。
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