研究概要 |
本年度はヒト大腸癌を用いurokinase-type plasminogen activator(uPAR)とgelati-nase B(MMP-9)の局在を免疫組織化学的にしらべその発現細胞を定量化し、肝転移の有無との関連を検索した。壁全層を貫通する進行癌121例の手術材料を用い、フォルマリン固定後パラフィンプロックを用いた。抗体はそれぞれ、Dr.K.DanoとDr.L.Kjeldsen(ともにデンマーク)より恵与された。免疫反応陽性細胞はuPARがマクロファージ主体、MMP-9が好中球主体でマクロファージもふくんでいた。ともに陽性細胞は癌先進部に集積していた。これらはすでに報告されたのと一致した。uPARについては顕微鏡視野にマイクログリッドを置き、以下の計算式で陽性細胞数を癌先進部で計測した。D uPAR=N/L(N:uPA陽性となったグリッド数、L: 計測したすべてのグリッド数)。MMP-9については顕微鏡視野で陽性細胞数を計測した。その結果、uPAR,MMP-9ともに陽性細胞の発現程度は肝転移を有する例では肝転移を有さない症例にくらべ約半分で、有意差を認めた(ともにp<0.01)。また、がん症例を先進部が浸潤性(31例)か膨張性(90例)で分けて比較するとuPAR,MMP-9いずれも先進部が浸潤性増殖例のほうが有意に低い値を示した(それぞれp<0.05,p<0.01)。これらの事実はいずれも予想と逆で、「マトリックス分解にかかわるとされる物質が癌組織内の生体反応性細胞に発現した場合、それは癌の浸潤・転移を積極的に促進するとはいえない。むしろ大腸癌では血行性転移に抑制的と思われた」ということを示している。これら現象の解明には1)マクロファージ、好中球の総合的作用に対するする考察、2)uPARについてはフィブリン溶解、MMP-9については炎症反応の観点も必要と思われた。
|