研究概要 |
がん細胞の浸潤・転移の阻止に重要な役割を果していると考えられるプロテアーゼインヒビターに,糊代を持ったインヒビターともいうべき新しい型の一群のインヒビターが存在することを見い出したので,本研究では,それらの構造と局在部位を決定した。まずエラスターゼやプロテアーゼ3を特異的に阻害するエラフィンが接着型プロテアーゼインヒビターであることを明らかにし,ブタの遺伝子解析より,この新しい型のインヒビターには構造が似たファミリーが存在することを明らかにした。これら新しく見つけたエラフィンの同族分子をWAP-1,WAP-2,WAP-3と命名し,それらを遺伝子工学的に生産し,糊代部分がトランスグルタミナーゼのよい基質になることを確認するとともに、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を作製した。2種類のモノクローナル抗体を用いるサンドイッチ法と呼ばれるラジオイムノアッセイを開発し,それを応用して組織分布を調べたところ,WAP-2(別名SPAI)は組織中のみならず血中にも1〜5nM程度存在することが明らかになった。血液中にも接着型インヒビターが存在することは大変興味深い。どの組織のどの細胞で合成され,血中に分泌されるのかが,抗体染色等により明らかになれば,新しい分子群の生理的・病態的意義の解明に一歩近づくことになろう。ノーザン解析の結果,WAP-1は気管と大腸に,WAP-2は小腸と大腸に,WAP-3は大腸に発現していることが明らかになった。本研究は,新型の接着性プロテアーゼインヒビターががん細胞の浸潤転移に及ぼす影響を調べるための基礎を築くものである。もし抑制作用が認められれば,インヒビタードメインのアミノ酸配列を置換した変異体を人工的にデザインし,臨床応用に結びつける研究も可能になるものと期待される。
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