研究概要 |
GD3合成酵素遺伝子を発現させた細胞に何が引き起こされて増殖抑制が起こるのかを分子細胞生物学的に解明すること、他の糖鎖遺伝子に同様の作用を持つものがあるか否か検討することを目的とし解析を進めた。 1.GD3合成酵素遺伝子を発現させたNeuro2a細胞の解析: 昨年度は、GD3合成酵素遺伝子を一過性に発現させるベクター(pcD-SRα系)を用いた。しかし、この系では、当該遺伝子発現後生じる現象を経時的に解析するには不向きである。そこで、TetによりGD3合成酵素の発現を調節できるベクター系を確立した。今後、この系を用いて、GD3合成酵素の発現を誘導後、増殖抑制に至るまで、経時的にガングリオシド各分子種の発現、各種がん遺伝子、なにびに、HPC-1、アセチルコリンエステラーゼなどの発現がどのように消長してゆくのかmRNA,タンパク質レベルで解析することが可能となった。 2.他の糖鎖遺伝子に増殖抑制を促すものがあるか否かの検討: 我々がクローニングした16種の糖転移酵素遺伝子の中ににGD3合成酵素遺伝子と同様の作用を持つものがあるか否かを検討した。その結果、H-タイプのα1,2-フコース転移酵素遺伝子を発現させると、Neuro2a細胞のガングリオシドはほとんどFuc-GM1だけになり、GD3合成酵素遺伝子にみられた分化とは異なった方向に分化しうることが明らかとなった。GD3合成酵素遺伝子の結果と合わせて考えると、細胞表層の糖脂質性糖鎖は細胞の状態をある程度規定していると考えられる。さらに、様々な糖転移酵素遺伝子を導入し発現させることにより、細胞表層の糖鎖を様々に改変することが可能であることを示している。これは、がん細胞の転移や増殖を抑制する新しい戦略の可能性を示唆するものである。いずれにしてもさらに詳細な検討が必要てある。
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