研究概要 |
1.200-1,700キロ塩基対の挿入DNA断片をもつ酵母人工染色体(YAC)を、スフェロプラスト融合法を用いて、ヒト並びにマウス培養細胞に安定して導入する技術を確立した。 2.長大な挿入DNA断片をもつYACクローンの導入においては、通常、遺伝子のみならず、その発現制御領域も導入されること、また多くの場合1コピーのみ導入されることから、導入遺伝子の、生理的状態に近い発現が得られるため、既知の遺伝子の機能解析に有用な手段となる。そこで正常p53遺伝子を各々0、1、2コピー保持する肝細胞癌培養系を構築し、その機能を解析することを目的とし、予備実験として、まずp53遺伝子を含むYACクローンをマウスL細胞に導入して発現させ、その生物学的性質の変化を検討した。この結果、p53遺伝子が導入、発現した細胞では細胞飽和密度が低下することが明らかになった。 3.YACクローンの細胞への導入法を用いれば、腫瘍DNAにおけるヘテロ接合性の解析により特定された数cMの染色体領域から、その機能を指標としてがん抑制遺伝子を単離することも可能である。そこで、ヒト肺非小細胞癌において共通して欠失の認められる第11染色体q21-23の約3センチモルガンの領域に対応する3つのYACクローンを、ヒト並びにマウス肺非小細胞癌細胞A549,LLCに導入した。この結果、A549細胞、LLC細胞ともにYACクローンの一つy939の全長に近いDNA領域が導入された細胞では腫瘍原性が抑制されたが、このYACクローンの一部や他のYACクローンが導入された細胞では腫瘍原性は抑制されず、y939上に癌抑制遺伝子が存在することが示唆された。
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