研究概要 |
大腸菌NhaAにランダムに変異を導入し、アンチポーター機能に欠損を持つ40種の独立の変異株を分離した。すべての変異株の一次構造を決定した結果、アンチポーター機能に必須な12種類のアミノ酸残基を同定した。これらの残基はいずれも膜貫通領域に存在するものであった。さらに各変異株の、pHに依存したNa^+/H^+およびLi^+/H^+アンチポーター活性を測定した結果、8種の変異株ではいずれの活性もほぼ完全に失われていた。一方、残り4種の変異株では以下のような興味深い性質が認められた。D133A変異では、Li^+/H^+アンチポーター活性に比べNa^+/H^+アンチポーター活性が選択的に失われており、D133の基質結合、イオン選択性への関与が示唆された。H225PならびにL73R変異ではいずれもpHに対する応答性が変化しており、本アンチポーターにおけるpHセンサーとしての機能発現にこれらの残基が重要な役割を果していると考えられた。L138P変異では極めて特異なイオン輸送活性の変化が認められた。すなわち、高濃度K^+存在下では、Li^+の添加により通常と逆方向へのH^+の輸送が見られた。こうした機能変化に対して、イオンカップリングの変化、あるいはLi^+/H^+アンチポーター活性がK^+によりモジュレートされているという可能性が考えられる。今後この変異株をもとにK^+/H^+アンチポ-との機能的協関の存在を検討していく。さらにL73Rでは高温感受性、L138PおよびH225Pでは低温感受性が認められたので、これらの意義についても今後検討していく。 カチオン輸送担体では、多くの場合膜貫通領域に存在する負電荷アミノ酸残基が重要な働きをしている。NhaAでは5つのAsp残基が膜領域にマップされる。そこでこれらの残基をそれぞれAsnに置換した変異体を作製した。その結果、D133N,D163N,D164N変異ではいずれもアンチポーター活性がほぼ完全に失われたが、D65N,D282Nでは活性に変化は認められなかった。したがって、NhaAでは膜中の3つのAsp残基D133,D163,D164がカチオン輸送に必須の働きをしていると結論された。 次年度以降の研究のために以下の準備をととのえた。まず、NhaAの膜中トポロジーを決定するために、nhaAとphoAの融合遺伝子を作製し発現プラスミドに組み込んだ。すでにnhaAの欠失変異体を系統的に分離し、phoAと融合したものを選別中である。今後これらをもとにPhoAの配向を決定し、NhaAのトポロジーを推定する。第2に、上記で分離したNhaA変異体の分子内サプレッサーの分離を進める上で、2重変異体を作製した。すなわち、これまですでに機能を回復した復帰変異体をいくつか分離し、一次構造を決定したところいずれも完全復帰体であった。そこでこうした完全な復帰を抑制するために、もとになる変異を二重異変とした株を部位特異的変異導入により作製した。今後これらの株をもとに分子内サプレッサーを分離していく。
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