アメフラシやショウジョウバエの研究から、cAMPによって活性化される転写調節因子CREBが中枢神経機能、特に長期記憶に重要な役割を果たすことが示唆されていた。本年10月7日のCellの最新号で哺乳類の記憶にもCREBが必須であることがノックダウンマウスにより明確に示された。我々は以前より、抗CREB抗体で中枢神経細胞、特に海馬が強く染まることから、CREBと長期記憶の連関に注目し、神経細胞の興奮→細胞内カルシウム上昇→カルモデュリンキナ-セIVの活性化→CREBリン酸化→長期記憶関連遺伝子の発現といった経路の存在を確信してきた。この仮設が正しければ長期記憶を担うシナプス可塑性遺伝子の一部はCREBのターゲット遺伝子(すなわちプロモーター領域にCREが存在する)である可能性が高い。本研究ではCREBのターゲット遺伝子をクローニングすることによってこうした長期記憶に不可欠な遺伝子を同定しようとしている。さまざまなアプローチでシナプスの可塑性を制御する遺伝子の探索は行われているが、本研究では転写因子CREBが結合し制御する遺伝子にターゲットを絞り込み、海馬の細胞が興奮時に特異的に発現するものをターゲット遺伝子として同定する予定である。
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