研究概要 |
私達は海馬CA1領域のシナプス伝達長期増強(LTP)の発現に伴って,CaMキナーゼIIの自己燐酸化反応が亢進し,Ca^<2+>非依存性活性が1時間以上亢進することを報告した。本研究では,海馬LTP発現におけるCaMキナーゼIIのシナプス前,後部の標的蛋白質について調べた。ラット海馬切片を^<32>P-燐酸でラベルしてCA1への入力線維を両側から高頻度刺激した。LTPを発現したCA1領域をパンチアウトし,シナプシンIと微小管付随蛋白質2(MAP2)のin situでの燐酸化反応を調べた。CaMキナーゼIIのシナプス前部と後部の基質と考えられるシナプシンIとMAP2の燐酸化反応は刺激後1時間で有意に亢進し,NMDA受容体阻害剤のAP5でLTPの発現を抑制すると亢進は見られなかった。シナプス前終末のシナプシンIの燐酸化反応の亢進がNMDA受容体阻害剤で抑制されることから,この燐酸化反応の亢進に逆行性伝達物質が関与することが示唆された(J.Biol.Chem.,1995)。次に,^<32>P-燐酸でラベルし培養海馬神経細胞を用いて,逆行性伝達物質のシグナル伝達系を解析した。調べた逆行性伝達物質のなかでは,血小板活性化因子(PAF)が10nM以上で持続的にプロテインキナーゼCの基質であるMARCKSとCaMキナーゼIIの基質であるシナプシンIの燐酸化反応を亢進させた。一方,NO産生物質,アラキドン酸の投与ではこれらの燐酸化反応の亢進は見られなかった(Abs.Soc.Neurosci.1995)。以上の結果は,海馬LTPにおいてCaMキナーゼIIはシナプス前,後部の両方で活性化されること,シナプシンIとMAP2は本酵素の標的蛋白質あること,また,逆行性伝達物質の候補であるPAFはシナプス前終末においてCaMキナーゼIIとプロテインキナーゼCを活性化する可能性を示唆している。
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