研究概要 |
海馬のニューロンの活動(痙攣)に依存して誘導される遺伝子群をRT-PCRを応用したmRNAdifferential display法で検索した。ペンチレンテトラゾール(PTZ)あるいはカイニン酸投与で痙攣が誘発されたラットから経時的に海馬のRNAを調製し、これらを104組の異なるプライマーセットを用いてRT-PCRで増幅した後、電気泳動を行なって表示した。誘導の度合いの大きいものが16種、小さいもの(2〜数倍)が50種前後認められた。誘導の度合いの大きいもの16種のうち、10種類は未知の遺伝子であると思われた。次に、これら遺伝子の発現誘導とシナプス可塑性の関係について検討した。ウレタン麻酔下のラットで、400Hz,2,000パルス(400Hz,1秒のテタヌス刺激を2分間隔で5回)の高頻度刺激を貫通繊維に与えると海馬歯状回において長時間(20時間以上)持続するLTPを常に引き起こした。上記16種の遺伝子のうち少なくとも8種類は、このテタヌス刺激によるLTPにともないmRNAの発現が大きく誘導された。このうちの1遺伝子はcDNAの構造解析から、activinβAであることが明らかになった。ActivinβAのmRNAは、PTZ投与3時間後に歯状回顆粒細胞で強く誘導された。またウレタン麻酔下のラットを用いて、長時間(10時間以上)持続するLTPを誘発する種々のテタヌス刺激(400Hzでパルス数が2,000、400、100、40等)を貫通繊維に与えると、3時間後に海馬歯状回で常にactivinβAmRNAの発現誘導が見られた。この結果はactivinβAの発現とLTPの持続に相関関係があることを示唆している。Activinは中胚葉誘導活性・赤芽球文化誘導活性等をもつ多機能なタンパク質である。また最近では神経発生に於ける役割が注目されている因子であるが、我々の結果は、activinが成体の脳におけるシナプス可塑性にも関わっている可能性を示唆している。
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