研究概要 |
本研究では,ヨーロッパモノアラガイを使って,味覚嫌悪学習の成立と神経回路発達との関連を調べた。咀嚼運動自体はベリコンジャー幼生から始めたものの,味覚嫌悪学習は孵化直前の胚で始めて成立することが分かった。胚の組織切片をアザン染色し,光学顕微鏡観察によって神経節や神経細胞の配置を確認した結果,ベリジャー幼生からベリコンジャー幼生に移る際に,脳神経節から口球神経節へのコネクティブが太く明確になってくることを見出した。また,ベリコンジャー幼生と孵化直前の胚では神経節の配置が成体とほぼ同様になっているものの,神経節全体における神経突起の体積は両者の間で1.5倍に増えていることが確認された。これによって味覚嫌悪学習の成立には成体と同じ神経節の配置を必要とし,また神経節または細胞間の結び付きが強固になっている必要があることが示唆された。しかし長期記憶の保持は孵化後10mm程のjuvenileに成長しないと成立せず,この結果の解釈は今後の分子レベルでの解析を待つ必要があった。 この味覚嫌悪学習を神経細胞レベルで明らかにするために,味覚嫌悪学習が成立した動物個体の中枢神経細胞を電気生理学的に調べたところ,咀嚼リズムを形成するcentral pattern generatorの1つの介在神経細胞において,調節介在神経細胞由来のIPSPが長期に渡って増強されていることを見出した。central pattern generatorは口球神経節に,調節介在神経細胞は脳神経節に存在することから,やはり味覚嫌悪学習にとっては,脳神経節から口球神経節への情報伝達経路が重要であることが裏づけられた。
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