N-ethylmaleimide-sensitive factro(NSF)は小胞輸送や神経伝達物質の開口分泌に関わるATPaseである。このタンパク質は、EDTA-ATP存在下で膜表在性のsoluble NSF attachment proteins(SNAPs)および膜内在性のSNAPerceptors(SNAREs)と沈降係数20Sの複合を形成してゴルジ膜に結合する。Mg^<2+>-ATP存在下ではこの複合体は分解し、NSFは膜より遊離する。これらの事実はMg^<2+>-ATPが多量に存在する細胞内ではNSFは膜に結合しておらず、専らサイトゾルに存在していることを予想させるが、実際にはNSFは細胞内でゴルジ膜などに結合している。本研究では、PC12細胞をジギトニンで可溶化したセミインタクト細胞を用いてこの矛盾点の解明を試みた。ジギトニン処理細胞をMg^<2+>-ATPとインキュベートするとゴルジ膜のNSFは遊離したが、この時ウシ脳より調製した細胞質画分を加えるとNSFが膜から遊離しないようになった。この活性を持つ因子を精製した結果、この因子はSNAPであることがわかった。すなわち、細胞内ではSNAPが多量に存在するために、20S複合体は分解してもすぐに再形成され、平衡状態ではNSFは膜に結合しているということである。 SNAREにはターゲット膜に存在するt-SNARE(シンタキシン、SNAP-25)と小胞に存在するv-SNARE(VAMP-2)があり、2つの局在性の異なるSNAREが結合することで小胞とターゲット膜がドッキングすると考えられていた(SNARE仮説)。しかし、私たちはシンタキシンやSNAP-25がターゲット膜のみならず、小胞側にも存在することを本年度の研究で見いだした。SNAREによるドッキングモデルは再検討する必要があるのかもしれない。
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