研究概要 |
ガングリオシドの神経系における役割を解明することを目標とし、GD3合成酵素遺伝子を発現させた細胞に何がどのように引き起こされて神経突起伸展を伴う分化がもたらされるのかを生化学的・分子細胞生物学的に解明すること、さらに、他の糖鎖遺伝子に神経分化誘導遺伝子があるか否か検討することを目的とした。 1.GD3合成酵素遺伝子を発現させたNeuro2a細胞の解析: 本年度は、誘導可能なプロモーターを組み込んだ新しい発現系の確立を試みた。その結果、テトラサイクリン系を用いて、GD3合成酵素が誘導可能な系の確立に成功した。現在、この系を用いて、GD3合成酵素の発現を誘導後、神経突起伸展に至るまで、経時的にHPC-1、アセチルコリンステラーゼなどをはじとして何がどのように発現してくるのかmRNA,タンパク質レベルでの解析を進めている。 2.他の糖鎖遺伝子に神経分化誘導遺伝子があるか否かの検討: 分化誘導がGD3合成酵素遺伝子にのみ見られる現象なのか否かを若干検討した。H-タイプの糖鎖の合成に関するα1,2-フコース転移酵素をneo-耐性遺伝子を持つ発現ベクターに組み込みNeuro2aに導入した。その結果、今までa-系列のガングリオシド(GM1,GDa1,GT1a)を発現していた細胞がa-系列を発現せずほとんどFuc-GM1のみを発現するようになった(N2A-RFT-I)。この細胞は血清を除くことによりaxon様ではなくdendrite様の神経突起を持つ細胞に分化すること、外因性ガングリオシドの効果が見られないことが明らかとなった。この知見とGD3合成酵素遺伝子の知見を考えあわせると、細胞表層の糖鎖組成が神経系の分化あるいはその方向付けに何らかの関与をしているものと考えられ、さらに多方面に渡る検討が必要となってきた。
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