研究概要 |
近年,電力設備の高電圧・大容量化は著しく,また設備形態も屋外から屋内へ,そして地下へと多様化が進んでいる.このような背景のもと,電力設備で発生する様々な高電圧現象を電磁環境という点から体系的に解明していくことは,供給信頼度を高める上で必要不可欠な問題である.このような観点より,本研究では電力設備周辺の電磁環境を解明するために, (1)高精度測定技術の確立 (2)電力設備周辺磁界分布および電磁環境の定量的な把握 を試みた.本研究の平成8年度にて得られた主な結果を以下にまとめる. 送電線周辺の極低周波領域の磁界分布を定量的に把握するために,縮小モデル送電鉄塔を用いた測定を実施した.縮小モデルを用いることにより,実規模送電線では測定が困難な (1)垂直方向分布や広い領域の磁界分布 (2)不平衡電流による磁界分布 を測定するとともに,理論値と比較することにより送電線鉄塔周辺の磁界分布を定量的に把握した. 三相電流により発生する磁界は,位相がずれることによりお互いの磁界を打ち消し合うように作用するのに対し,不平衡電流にはそのような作用がずれるために,磁界強度分布に対し大きな影響を与えることを確かめた.さらに,電線弛度の磁界分布に対する影響を測定および解析を行い,今回の試験条件下では鉄塔による磁界の変歪の影響は小さいことを確認した. アンテナ/スペクトラムアナライザを含んだ電磁波受信装置を用いて,位相ゲート制御法を適用することにより,正/負サイクルに発生する部分放電(PD)による放射電磁波を区別して測定した.その結果,PDによる放射電磁波は実際のPDの放電電荷量に対応したスペクトラム利得として受信されることを示した.次に,ゼロスパン測定を導入することにより交流1サイクルに対するPD電流パルス/放射電磁波の任意の周波数成分の時間変化を測定した. さらに,位相ゲート制御法を用いて空気中ノイズを模擬した空気中PDから,電力機器内部の微弱なPD信号を模擬したSF_6ガス中PDの電磁波スペクトラムを分離・識別する手法を示した. 次に,空気中PDおよびSF_6ガス中のPDの放電電荷量を任意に変化させた場合について,電磁波スペクトラムによりSF_6ガス中のPD信号を識別できる識別可能範囲を示した.その結果,周波数帯域が高くなるほどSF_6ガス中PDのスペクトラムのみが残るので,空気中PDから分離・識別できる識別可能範囲が広くなることを示した.このように,実機器を対象とした数10pC程度のPD測定では本手法が十分有効であることを述べた.
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