研究概要 |
本申請課題では,植物細胞培養による色素生産から選択的な色素の分離・精製までを一貫したプロセスとして検討し,これに伴う工学的諸問題の究明とその解決を図ってきた.具体的には,以下のような知見を得た. 1.種々の植物から得られた毛状根に関し,培養条件,培養操作と生成色素成分,色素生産量の関係を明らかにし,高効率な色素生産を可能とする培養手法を確立した.対象とした細胞と色素は次の通りである.セイヨウアカネ毛状根:アリザリンとその配糖体およびルシジンとその配糖体.レッドビ-ト毛状根:ベタニジンとその配糖体. 2.一般に,植物色素は細胞内の液胞中に含まれ,また,植物細胞は堅固な細胞壁で囲まれており,細胞内に蓄積した色素を効率的に抽出する必要がある.そこで,培養中の酸素飢餓にすると細胞内の色素が培地中に漏出されることを見出し,培養操作と色素回収率の関係を工学的観点から詳細に検討し,合理的な色素回収手法を確立した. 3.得られた色素混合物から,目的成分のみを高選択的に分離する反応系を検討した.すなわち,酵素の基質特異性を利用し,目的成分の配糖体のみを加水分解する酵素を検索する.セイヨウアカネから得られるアリザリン配糖体やルシジン配糖体などが酵素反応系に供給されると,選択的に加水分解されアリザリンを得る.アリザリンは通常親油性であるため,有機溶媒による抽出操作により容易に分離しうる.未反応のルシジン配糖体については,別の酵素あるいは酸によって加水分解する.このように,抽出操作を伴う酵素反応により,目的とする色素成分の変換と分離を同時に達成するシステムを構築した. 以上のように,本申請課題は,植物由来の有用色素の生産と変換・分離に関する工学的基礎の構築を行った.得られた研究成果は,植物細胞培養による工業規模での色素生産に対し,大いに寄与しうるものと期待される.
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