研究概要 |
神経回路モデルを仲介とする合成的手法を用いて,生物の脳における能動的視覚情報処理仕組みを解明するとともに,そのメカニズムを取り入れたパターン認識システム(網膜に映った光学像を単に受動的に処理するのではなく,もっと能動的な処理を行なう視覚情報処理システム)の新しい設計原理の開発を目指して研究を進め,以下のような多くの成果を得た. 1)形と動きの両処理系を持つ神経回路モデル,このモデルは哺乳動物の視覚系と同様に,形と動きの情報を別のチャネルで処理し,その時に生じる結びつけ問題を選択的注意機構によって解決している. 2)両眼視機構の神経回路モデル.far-cell, near-cell, fine-tuned cellなどを含む両眼性細胞の神経回路モデルを完成させた.物体が,注視点よりも近くにあるか遠くにあるかを識別できるようになった. 3)不均一な受容野と眼球運動.眼球の中心部で解像度が高く,周辺部で低くなるような不均一な受容野サイズを持ち,眼球を動かしながら外界の視覚情報を獲得していくシステムを構成した. 4)空間記憶の神経回路モデル.外界の空間恥部を断片的に記憶し,その記憶をもとに広範囲の地図を連鎖的に想起する能力を持ったシステムを実現した. 5)ネオコグニトロンによる文字認識の実用化.ネオコグニトロンは哺乳動物の視覚系のメカニズムをヒントに筆者らが以前提唱したパターン認識システムである.このシステムの実用化を目指して研究を進めた.回路構造や学習法に改良を加え,手書き数字の大規模データベースETL-1に対して98%以上の認識率を得た. 6)連鎖記憶回路の理論的解析.相関マトリクス型連想記憶回路の記憶容量など種々の性質を解明した.
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