研究概要 |
イノシトール1,4,5三リン酸受容体タイプI(IP_3R1)の中枢神経系における形態及び行動様式に果たす役割を明らかにする目的で、標的遺伝子組み換え法によりIP_3R1ノックアウトマウス(IP_3R1-/-)を作製した。中枢神経系の形態学的検討をへマトキシリン・エオジン染色法により行った。更にIP_3Rについては各タイプ別(タイプ1,2,3)に海馬でウエスタンブロットを行った。また、^3H-IP_3を用いたin-vitroオートラジオグラフ法と発育過程における行動解析を行った。IP_3R1-/-ではIP_3R1抗体を用いた免疫組識反応では染色されず、IP_3R1の発現は、脳内で完全に抑制されていた。しかし、IP_3R1-/-においてヘマトキシリン・エオジン染色による形態学的検討ではIP_3R1+/+との間に有意な差異を認めなかった。IP_3特異的結合量はIP_3R1+/+と比較してIP_3R1-/-で脳内全体で有意に低下していた。しかし、海馬CA1の結合量低下は他の領域と比較して軽度であった。IP_3R1-/-では生後9日目より失調性歩行を示し、15日目には全身にてんかん重積発作が出現した。また、時に後弓反張様姿位を認め、脳波では典型的なてんかん様波型を示し、生後25日目位で全例死亡した。IP_3R1欠損により失調症状及びてんかん症状を認めた機序について、今後更なる検討が必要であるが、以上の結果より、IP_3R1は脳の機能維持に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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