研究概要 |
こんにちの仏教学学界における研究姿勢のひとつに,ツォンカパ(Tsong kha pa Blo bzang gragspa′ i dpal,1357‐1419)の仏教哲学の解明をもって研究を進めるという動向がある。ツォンカパは,14世紀に活躍した,チベット仏教を代表する思想家のひとりであるも,インド大乗仏教の伝統を踏まえつつ,中観帰謬論証派の見解をもって,仏教思想のそのすべてをきわめて理知的に分析し,ひとりの思想家の哲学として綜合しえたところに注意すべき意義がある。 このたびの研究は,ツォンカパの思想を解明するうえで基礎となる文献について,校訂テキストの作成とともに和訳を試みることを主たる目的とした。この三カ年の研究期間内では,「見解に関する主要な五つの善説」と呼ばれる中観思想に関するツォンカパの著作に注目し,そのうち,未だ和訳が行われていない『菩提道次第略論』(Lam rim chung ba/chung ngu,1415)から観(vipasyana)に関する論述部分(1Hag mthong chung ba/ chung ngu)と『善説心髄』(Legs bshad snying po,1407/8)との二つについて和訳を完了することができた。 研究期間内に行った主たる研究成果として,以下の出版物を刊行し,または平成十年度中に刊行予定である。 『ツォンカパ中観哲学の研究I』ツルティムケサン・高田順仁(京都・文栄堂1996) 『ツォンカパ中観哲学の研究II』片野道維・ツルティムケサン(京都・文栄堂1998) 『ツォンカパ大乗菩薩道の研究』(仮題)ツルティムケサン・高田順仁(京都・文栄堂1999刊行予定)
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