研究概要 |
本研究には3つの主目的があった.すなわち,近交系マウスを用い,行動の直接観察法を援用して,(1)個体の自発活動が種々の異なる場面にわたって同じ構造であることを確かめること,(2)自発活動の変容に関して学習の初期の進行を分析し,特徴的な自発活動パターンが学習中に特有の形で相互作用する,すなわち,自発活動パターンの生得的強固さによって学習成立過程が異なることを示すこと,(3)観察法に使われる行動項目の標準化を試みること,であった.目的(1)は達成された.すなわち,近交系(A)は異なる場面で独特な自発活動パターンを示し,近交系(B)は(A)とは違ったパターンを示すことがわかった.この独特な自発活動のパターンは学習場面で特有の仕方で変容していくことも見い出されたが,これは目的(2)を裏づけるものとなった. 目的(3)は未完成である.行動パターンの確定は最初から難しい問題をはらむ.行動の水準を決めるのは予想外に困難であった.その水準は,「歩く」から「散歩」までに広がっており,これは行動の水準を決めるのが最初から困難であることを意味している.しかしながら,この作業は続けねばならない,なぜなら,観察法は心理学研究に重要な情報をもたらしてくれるからである. また,動物の種々の場面の行動(動画)データベースを作ることの重要性を強調した.これは行動研究に本質的に有用となるに違いないからである.
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