研究概要 |
社会的相互交渉は子どもの認知発達に様々な影響を与える。この相互交渉過程を描き出すことは,子どもの知識獲得や社会的スキルの獲得のメカニズムを探る上で重要な示唆をもたらす。しかし,従来の研究は,2,3の方法論上の問題により,この相互交渉過程を詳細に記述することが不十分であった。そこで本研究では,協同なぞり課題という課題場面を設定し,そこで生じる子どもの相互交渉活動を,発話やマクロな身体的行為に加え,感覚運動レベルにおけるミクロな身体的活動である協応動作にも焦点をあて,記述する方法を提案した。まず,事例的研究を通じて,幼児は,ことばによる交渉以外にも,協応動作レベルでの絶え間ない相互交渉を行っていることや,相互交渉過程においてことばが行為に対して持っている制御的な機能を推定する手掛かりが得られることが示された。次に,実験的研究により,子どもはからだの動きのリズムやタイミングを相互に同期的に,あるいは交代的に調整することで,協応的な関係を形成していることが示された。また,このような関係の形成には,状況要因としての課題文脈の具体性,個体要因としての子どもの認知スタイルや年齢が,重要な影響を及ぼしていることが分かった。最後に,観察的研究として,からだを通して相互交渉する子どもの実態を教師の視点から記録・解釈を行った。子どもは,日常の生活の中でも,ことばで交わす以上の豊富な意味を,からだを通じた仲間との関わりの中でやり取りしていることが示された。
|