研究概要 |
1995年より1997年にわたって実施された本調査研究は,タイトルに示すように,当該事業の対象者がより今日的な緊急性をもって存在すると予測される大都市圏の婦人保護施設および一時保護所の実態を明らかにし,かつ,直接処遇職員の視点から当該施設の今日的機能を探ろうとするものである。本調査研究では,1)当該領域に関する基礎データの収集を意図した全国婦人保護施設,一時保護所の実態把握,直接処遇職員の処遇意識に関するアンケート調査,2)大都市圏に所在する婦人保護施設の課題摘出を意図した事例研究,3)関連機関・施設との連携状況,連携可能性と課題についてのヒアリング調査が実施された。調査研究の主な成果としては以下の点が挙げられる。まず,基礎調査では,その形態,意識の変化等,買売春の現代的多様性に伴う課題と「虞れ」概念の適用による利用者が7割以上を占める事実。また,「虞れ」適用ケースの実態として,(1)母子ケースを含む「家庭内暴力からの緊急避難」の増加,(2)知的課題や精神的課題を抱えるケース等,「専門的対応を要する自立困難ケース」の存在,(3)強い実質的・精神的孤立傾向等の諸点が明らかにされたこと。事例研究では,法的用語も含む「虞れ」概念,高齢化に対応し得る制度・施設整備,エイズ等への心身のケアの在り方,改正精神保健法等,関連法制度との連携等の要検討課題が指摘されたこと。ヒアリング調査では,婦人保護問題の今日的状況を,女性の社会的地位をめぐるノーマライゼーションと家族意識の変動のネガティヴな表出ととらえる視点が提示され,地域における問題発見的な機能を担う婦人相談員制度の拡充,利用者の実態に合致した一時保護所の法的整備,子ども同伴の逃避ケースへの母子寮等における緊急保護機能の整備等,既存の制度の拡充と共に,今日的な家族問題への相談・調整機関の整備の必要性など,予防を含む具体的方向性が提起されたこと等である。
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