研究概要 |
本研究は,強磁性金属電極を持つ金属/絶縁体/金属(MIM)型の強磁性トンネル接合におけるトンネル効果について,特にマグノンやフォノンの関与する非弾性電子トンネリング(IET)過程など電子ー素励起相互作用の電極磁化依存性を実験的に明らかにすることを将来の目的として,絶縁体部分に遷移金属カルコゲノフォスフェイト系の反強磁性層状半導体単結晶へき開薄膜を用いた強磁性トンネル接合の作成を目指して行った.具体的には,強磁性金属Feを電極とし,Fe/MnPS_3/Fe型のMIM接合を作成した.その結果,数個の試料についてトンネル電流を確認することができた.ただし,現象論的にトンネル抵抗と直列あるいは並列に金属的電流路が形成されたため,理想的なトンネル接合とはなっておらず,今後の課題を残した.また,障壁層としての層状半導体の模索,MIM接合における電極効果の検出も試み,本研究の副産物として以下の結果を得た. (a)MnPS_3反強磁性層状半導体単結晶へき開薄膜を障壁層とするPb/MnPS_3/Pbトンネル接合のトンネル特性にマグノンの関与するIET効果を見出した. (b)Sb/GaS/PbおよびSb/GaS/Sbトンネル接合のトンネル特性に半導体Sbの電子帯構造およびSbフォノンが関与したIET過程が反映されていることを観測した. (c)Al/GaS/Pb,Ag/GaS/Pb,Cu/GaS/Pbトンネル接合のトンネル特性に電極の自己エネルギー効果が現れていることを確認した. (d)遷移金属カルコゲノフォスフェイト系の非磁性層状半導体単結晶In_<2/3>PS_3の光吸収スペクトルより,In_<2/3>PS_3が間接吸収端を持つ物質であることを明らかにし,In_<2/3>PS_3の励起子ギャップと運動量を保存するフォノンのエネルギーを決定した.
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