研究概要 |
本研究では、申請者らの開発した新規な立体保護基である2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(Tbt基)を用い、その嵩高さを有効に利用することで、Tbt(R)Si=Y(Y=O,S,Se)のようなケイ素-16族元素二重結合を有する化合物およびTbt-Si≡Si-Tbtのようなケイ素-ケイ素三重結合を有する化合物を速度論的に安定化することで、安定な化合物として合成し単離することを目的とした。 前者のケイ素-16族元素間の二重結合化合物の安定化においては目的化合物の一つであるケイ素-硫黄二重結合化合物すなわちシランチオンの合成単離に成功するとともにその構造・性質の解明を行うことができ、予想通りの成果を達成できた。また、シラノンやシランセロンなど同様のケイ素-16族元素二重結合化合物についてもTbt基を用いた立体保護により安定化を計り、その発生を確認することができた。さらに、ケイ素を含む累積二重結合化学種であるシラケテンイミンの合成についても検討し、Tbt基を用いて安定化した系においては、目的としたケイ素-炭素-窒素の結合が累積二重結合(クムレン)型ではなくシリレン-イソシアニド錯体型の結合様式を持つことを明らかにした。また本研究で得られた知見は、含ケイ素二重結合化学種の安定化のみならず、ゲルマニウム、スズ、および鉛など同族の14族高周期元素を含む二重結合化合物の安定化にも有用であることも見い出した。本研究のもう一つの合成目標であったケイ素-ケイ素三重結合化合物の合成に関しては、未だ条件検討の域を出ていない状況ではあるが、申請者らのこれまでの研究成果を踏まえ、適切な立体保護基を設計・選択し、合成並びに単離の条件を工夫することで、近い将来必ずや安定に合成できるものと考えている。
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