研究概要 |
本研究の成果は次の3点に要約される. (1) 銅ハライドのヘテロエピタキシ-と表面物性 銅ハライドCuX(Ib-VII化合物)は正四面体配位結合の閃亜鉛鉱型結晶群に属し,IV,III-V,II-VI族化合物系列の末端に位置する.したがって,CuXは共有性とイオン性を合わせ持つ物質である.本研究ではCuCl,CuBr,CuIをGaAs,Siの様々な両方位の基板上への成長を試み,その成長の特徴を明らかにした.表面構造はGaAs,Siと同様に面方位依存性を持つが,ダングリングボンドの活性度はGaAs,Siよりも弱いことを見いだした. (2) NaCl(111)極性面の成長 岩塩型結晶の(111)面は正負いずれかのイオンのみが並ぶ極性面で,特異な表面物性を示すことが予想されている.現在までそのような表面は金属表面の酸化により数層の薄膜状態でしか得られていない.本研究ではNaCl/CuCl/CuBr/GaAs(111)という複雑なヘテロ構造を作製することにより,NaCl(111)の平坦面を得ることに成功した.その表面には膜厚に関わらず半原子層ほどの銅原子が存在するが,これは[111]方向に積層する双極子による巨視的な電場を打ち消すためと考えられる.この結果は,触媒や低次元物理においてより興味深い特性を示すと期待される酸化物の極性面作製へ手がかりを与えるものである. (3) その場観察によるアルカリハライドヘテロ界面の評価 アルカリハライドの他のアルカリハライド上へのヘテロ成長の様式は我々の以前の結果から3種に分類されることが知られている.これらは反射高速電子線回折(RHEED)により得られたものだが,今回薄膜成長真空糟と真空紫外光学測定装置を組み合わせた新しい分析装置を作製して,成長した薄膜を真空を破らずにその場観察した.その結果,膜厚1nm程度の超薄膜の測定も可能になり,アルカリハライドヘテロ界面の励起子吸収ピークのエネルギー変化から,界面における格子歪みの大きさを見積もることができた.この値はRHEEDから求めた値とも良い一致を示している.
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