研究概要 |
本研究は,マグネトロンスパッタ法によりYBCO酸化物超電導体膜を結晶配向を制御して銀膜上に形成し,さらにその結晶組織を制御することにより,液体窒素温度で臨界電流密度Jc=10^8A/m^2程度の性能を持つ酸化物超電導線を作製し,合成条件,圧延条件が電気的特性にどの様な影響を及ぼすかを明らかにし,酸化物超電導導体の作製法の指針を得ようというものである.まず,(111)に高配向した銀膜上にYBaCuO膜を配向させて合成するための条件を検討した.その結果,Y:Ba:Cuの比を1:2:3.5としたターゲットを用い,基板温度620℃,酸素分圧1.0×10^<-3>Torrの条件で基板をoffaxisに設置することにより,(001)に配向したYBaCuO膜を合成できることがわかった.さらに,この膜の極点X線分析結果より,a,b軸も面内の特定の3方向に揃っていることがわかり,本方法により銀膜上に高配向のYBCO膜が合成できることがわかった.この時のYBCOの面内配向はFWHMで2°程度であり,臨界電流は,磁界なしの場合にJc=1.4×10^8A/m^2であった.さらに,このYBCO膜の機械的特性と超電導特性との関係について調べ,YBCOに圧縮ひずみを加えたときは,ひずみが4×10^<-3>程度までの場合には臨界電流は増加し,それよりひずみを大きくするとクラックの生成により臨界電流が急激に低下すること,引っ張りひずみに対しては1×10^<-2>程度まで臨界電流は変化しないことを明らかにした.さらに,この導体について液体窒素への繰り返し入浴試験を行い,繰り返し液体窒素に浸しても超電導特性に低下のないことを明らかにした.また,電流電圧特性を詳細に調べることにより,この導体は,超電導状態が破れても銀に電流がパスされるために超電導薄膜が破壊されることがない,安定化導体であることが明らかになり,本方法による導体化プロセスの有効性が示された.
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