研究概要 |
プラズマ溶射コーティングは,大規模な真空チャンバーを必要とせず,成膜速度が大きく,膜厚制御が容易であり,また成膜する材料の選定が幅広く行えるなどの優れた特徴から,耐熱性ならびに耐摩耗性を付与するコーティングとして種々の分野で実用に供されてきた。しかしながら,本来,耐食性,耐熱性などに優れるセラミックコーティング膜自身は,これらの抵抗性が著しく大きいはずであるにもかかわらず,溶射皮膜生成のメカニズム上不可避的に膜中に存在する欠陥のために成膜された部材が必ずしも優れた特性を示さないなど,数多くの問題が解決されないままに残されている現状にある。 そこで,耐食性・耐酸化性などの種々の抵抗性と皮膜中に存在する欠陥の形態との相関性を明らかにし,減圧溶射することによる皮膜構造の緻密化がこれらの特性に及ぼす影響ならびに,CPCD法による溶射コーティング皮膜の欠陥評価の可能性を検討し,以下の結論を得た。 1.NiCrAlYからZrO_2までの皮膜組成を傾斜化させた傾斜組成皮膜においては,割れなどの欠陥の生成が抑制されている。しかしながら,皮膜組成の傾斜化によっては,Pt対極とのカップリング条件下における腐食電流密度の多少の改善を除いて,期待するほどの耐食性の改善が実現されていない。封孔処理による耐食性改善の効果は顕著であり,さらに封孔処理後に300℃での後熱処理を行なったコーティング皮膜は,耐食性の点でかなりの改善が期待できることが示された。 2.CPCD(Critical Passivation Current Density)法による溶射皮膜の貫通欠陥率の定量的評価の可能性が示された。また,減圧溶射法の採用ならびに封孔処理により貫通欠陥の存在率が約1/4程度に低減した。 3.減圧溶射皮膜はヒートサイクルの初期においては皮膜に存在する欠陥の少なさに起因する酸化特性の改善を示したが,ヒートサイクルの繰り返しに伴い発生する熱応力により,大気溶射皮膜よりも先に割れを発生し,耐環境性の点でむしろ劣る結果となる. 4.エチルシリケートならびにNiめっきによる封孔処理は,溶射皮膜の耐酸化特性を著しく改善するとともにヒートサイクル繰返しに伴うクラックの発生を抑制する。 5.したがって,封孔処理を施すことにより,大気溶射皮膜の酸化特性の改善が可能となり,ヒートサイクル環境下における同皮膜の長期耐久性と相まって,減圧溶射皮膜よりも優れた特性を実現することが明かとなった。
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