研究概要 |
高齢化社会を迎えようとしている現在、都市および建物が、高齢者にとって安全な環境でなければならないことは言うまでもない。この安全な環境の中で、一番多い事故は、転倒による事故である。 本研究は、高齢者が安全に歩行のできる床の条件を求めるとともに、転倒しそうになったときの護身対策、なかでも効果的と考えられる手すりについて、人間工学的に究明したものである。また、本研究の特徴は、実験室内での実験では困難な現実的な歩行の軌跡を採取するために、街中を自然歩行中の歩行形態をビデオカメラで撮影し、各年齢層における歩行軌跡を定量化したことである。 1)“つまずき"による転倒事故:年齢と共に体カは衰え、歩行形態も変化していく。根研究は、各年齢層の歩行形態を定量化することにより、各年齢層による歩行軌跡の変化を求め、“つまずき"転倒の原因となる床の凸凹と歩行形態の関係を明らかにした。2)“すべり"による転倒事故:転倒事故は、歩行形態のみで決定されるものでなく、床の仕上げ材料,床の状況,履き物の種類などの要因も大きく影響する。したがって、床の仕上げ材料の種類と状況が、履き物の違いによって、“すべり易さ"にどのように影響するかを実験により明らかにした。3)手すりの好ましい条件:今までに報告された実験の多くは、手すりの形状,高さ,力の関係を示すものであったが、本研究は、安心感,使いやすさなどの人間の心理的要因を加えた、より総合的な使いやすい手すり(安心感のある手すり)の条件を若者と高齢者を比較しながら提示している。4)生活時間実態調査:家庭災害の報告は、事故の件数でなく、事故率(滞在時間に対する事故の件数)で表すものである。したがって、本研究は、一般住宅を対象に各部屋における人の滞在時間を調査した。以上の1〜4)の資料を提示することにより、高齢者の転倒防止のための基礎資料として利用することができる。
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