高硬度、高熱伝導度を有するダイヤモンド膜の切削工具への実用には、過酷な切削条件にも耐え得る強固な密着性が要求される。本研究では、ダイヤモンドと熱膨張率が比較的近い窒化ケイ素セラミックスを基質に選び、基質表面層の前処理とCVD初期条件を制御することにより、ダイヤモンド膜と基質との界面領域に傾斜組織を形成し、切削条件下でも高密着性を保持しうるダイヤモンド被覆法を開発した。 1.基質の前処理の効果 市販の窒化ケイ素焼結体基板をフッ酸と硝酸の混合水溶液中で処理し、基板の表面近傍に多数のエッチピットを形成した。その後、ダイヤモンド粉末を懸濁させたエタノール中に酸処理基板を浸漬して、超音波キズ付け処理を施した。この前処理により、ダイヤモンドアンカーの形成が可能であることを確認した。 2.二段階CVDの効果と界面領域の観察・分析 ダイヤモンド膜の合成には、CO-H_2系のマイクロ波プラズマCVD装置を用いた。上記の前処理基板に二段階のCVD条件でダイヤモンド膜を合成した。微粒ダイヤモンドの析出する第一段階CVD処理後には、ダイヤモンド粒子がエッチピット内部に緻密に充填析出していた。また、高速の第二段階CVDで厚膜化した試料断面の組織観察、ラマン分光分析により、膜-基質界面領域における傾斜組織および傾斜組成の形成を観察した。 3.密着性の評価と切削試験 高速精密旋盤で被覆試料を加工して、その熱膨張率を測定し、被覆前の試料のそれと比較した。また、作製したダイヤモンド・コーテッドチップについて、断続フライス切削方式で、Al-20%Si合金を被削材とし、回転数:2500rpm、切削速度:400m/min、送り量0.1mm/rev、切込量:0.25mmの条件で切削試験をおこなった。その結果、上記の手法で作製した試料では、飛躍的な密着性の向上が認められた。
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