研究概要 |
モモの矮性台の矮化機構を明らかにするため,矮性台木として有望なユスラウメ台のモモ樹と共台のモモを比較しながら樹体生長,光合成や蒸散,乾物の分配,さらには接木部の形態観察や組織化学的および化学的ポリフェノール分析を行った. 共台樹に比べてユスラウメ台樹の生長は穏やかで定植後3年で樹高は共台の51%であった.光合成速度は矮性台樹の方が幾分低く,これは葉の気孔密度が低いためと思われた.蒸散速度には差が認められなかった.しかし葉のポテンシャルは矮性台で共台に比べて小さく,また日変化も大きかった.乾物の分配をみるとユスラウメ台では明らかに根への乾物の分配が多かった.一方,葉の総量は共台の方が多かった. 接木部組織を観察すると,カルス形成から維管束連絡が行われる過程で共台では接木6ケ月後に壊死組織はほとんど吸収されたが,矮性台では残存壊死組織の量が多かった. 接木部をDMACA(p-dimethylamino cinnamaldehyde)で染色すると,共台では接木部でカルス細胞は染色されず,接木完成後に樹皮部に多くの青色に染色される細胞が認められ,ここはモモに種々のポリフェノール物質が多いためと思われた.一方ユスラウメ台では接木部のカルス細胞を青色に染色された細胞がとりまき,その部位では壊死細胞も認められ,これらが接木部の完全な接着を妨げていた.接木部のアセトン抽出物のHPLC分析でRT15分以上の4個の未同定ポリフェノールを得た.これらは共台で多く,またその台木部で多かった.一方ユスラウメ台の台木部には存在しなかった. 以上の結果,モモはポリフェノールを比較的多量に含むユスラウメではごく少なく,このためユスラウメ台モモでは穂木(モモ)と台木(ユスラウメ)の接木部においてモモからユスラウメにポリフェノールが移行し,このポリフェノールのユスラウメの細胞に害作用を及ぼし接木部の癒合を不完全にしていると考えられた.
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