研究概要 |
炊飯過程については多くの研究があるが,米一粒の中でどのように澱粉の糊化が進行するかについての定量的な研究は行なわれていない.本研究では生体組織中の水の状態変化を非破壊で測定する強力な手段である磁気共鳴画像法(MRI)を用いて米粒内の糊化進行過程を測定することを試みた.まず,炊飯過程の任意の時間で米粒を急冷した試料について2次元MRI横緩和時間画像をとりそれを換算して水分画像とし,炊飯の進行と共に水分分布の変化する様子を捕えた.しかしながら,この方法では1つの水分画像をとるのに2時間余りを費やし,しかも,試料の急冷による変化が大きな疑問として残る.そこでリアルタイムでの測定の実現を目差した.更にし数学モデルによる検討と組合わせて糊化過程の分子レベルでの解析を目的とした。 炊飯のリアルタイム測定のためには短時間に数個の横緩和時間画像を測定するため多数回シーケンスモードによる測定が必要である.また対象とする系の磁気緩和時間が短いため信号強度が低下しノイズが大きくなることに対応した測定法の開発および解析のためのデータ処理プログラムの開発が必要であった. 次にリアルタイム測定で得られた炊飯中の米粒内水分変化から糊化過程の分子レベルにおける解明を目指した.米粒を構成する細胞壁の果たす吸水・糊化過程への役割を明確にすべく酵素処理した精白米と無処理の精白米を調整し,偏光顕微鏡観察および炊飯中の水分変化測定を行なった。その結果細胞壁による吸水抑制効果は大きくないことがわかった.このことから米粒を楕円円柱状に成型されたデンプンと見做して,炊飯過程における水分子の移動現象を計算した.計算結果による予測は実験結果よりずっと遅い水分上昇を示しており計算に使った仮定に誤りがあるか或いは拡散係数や糊化速度が実際と異なっていることを示唆しており,更なる研究が必要である.
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