本研究ではニホンウナギの卵黄形成の分子機構の解析を通して、健全な稚魚の発生のためのビテロゲニンの合成を統御することを目的とした。本研究ではまず、サケ脳下垂体投与により人為催熟された雌ウナギを材料として、肝臓でのエストロゲン受容体量の変化を結合実験により調べた。その結果、肝臓でのエストロゲン受容体量の変化は血中エストラジオール-17β(E2)量の変化によく相関し、成熟に伴い増加した。次に、肝細胞で発現しているエストロゲン受容体とビテロゲニン遺伝子のcDNAクローニングを試み、蛋白質翻訳領域の全体を含むエストロゲン受容体cDNAおよびビテロゲニンcDNA断片のクローニングに成功した。ニホンウナギエストロゲン受容体は573個のアミノ酸からなり、他種と比較して、DNA結合領域で約80%、ホルモン結合領域で約55%と高い相同性を示した。これらcDNAを用いてエストロゲン受容体およびビテロゲニンの成熟に伴う肝臓での発現変化も調べ、血中E2量の変化とよく相関することも明らかにした。肝細胞培養系の確立およびビテロゲニンの微量測定系(ELISA法)の確立にも成功し、雄よりも雌の肝細胞の方がはるかに高いビテロゲニン合成、分泌能を有することも明らかにした。さらに、卵巣の器官培養系を確立し、卵母細胞のビテロゲニンの取り込みに及ぼす各種ホルモンの影響も調べ、ビテロゲニンの取り込みに脳下垂体ホルモンおよび甲状腺ホルモンが関与することを示唆した。
|