研究概要 |
板鰓類,特にサメ類3種の系群解析を形態的,生態的,遺伝的な形質を用いて解析した.ホシザメについては台湾海域を含む7ヵ所から合計1,514個体の標本を採集し,外部形態と脊椎骨による形態的な特徴,年齢と成長,繁殖,食性,寄生虫の寄生率などの生活史特性,遺伝子配列などにより,系群の識別を試みた.まず,正準判別分析を用いた解析では,形態に海域間で雌雄ともに有意な差が認められた.年齢と成長でも海域間に違いがみられ,台湾産がもっとも成長が悪く,青森産がもっとも成長がよかった.最大体長と最高齢も南から北に行くにつれ増加する傾向がみられた.成熟体長と成熟年齢は台湾から青森に行くにつれ増加する傾向がみられた.また,出生体長も同様な傾向が認められた.一腹の胎仔数は東京湾がもっとも少なく,台湾がもっとも多かった.青森近海産は他の海域と異なる繁殖サイクルを示した.食性にも違いがみられ,同一体長では台湾から青森に行くにつれ減少する傾向がうかがえた.寄生虫の種類や寄生虫にも地域的な特性が観察された.遺伝学的には,系群解析を試みたが,他の板鰓類同様多型は検出できなかった.以上の結果から,日本周辺には少なくとも5つ以上の系群が存在することが示唆された.ツマリツノザメについては,世界7海域から採集した合計133個体について,58の計量・計数形質を比較した.この結果,楯鱗と胸鰭の形態に海域間の差が認められ,地中海,南アフリカ,及び日本近海とオーストラリアの3グループに分けられた.またミトコンドリアDNAの塩基配列の解析結果からは,日本,オーストラリア,南アフリカ近海の3つに分けられた.以上の結果から,本種群は日本近海,オーストラリア近海,南アフリカ近海,地中海の4グループに分けられた.ヨゴレについては太平洋産の年齢と成長,繁殖形質を世界ではじめて明らかにし,系群解析の基礎を築くことができた.
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