研究概要 |
フグ科魚類の血漿中にはテトロドトキシン(TTX)と結合する高分子物質(TTX結合物質)が含まれ,血漿中のTTXの多くはこの物質と結合した状態で存在する。しかし本物質はTTXのみでなくサキシトキシン(STX)とも結合すること,フグ血漿中には微量のSTXが本物質と結合した状態で存在することが新たに分かった。血漿中に遊離状態で存在するTTXやSTXなどの低分子毒の濃度は血漿を排除限界5kDaの限外濾過膜を用いて遠心分離し,濾疫中の低分子毒の濃度を測定することにより決定した。またTTX結合物質と結合中の低分子毒の濃度は酢酸添加によりTTX結合物質から遊離した低分子毒の濃度を測定することにより決定した。調べたフグ科魚類の血漿の全てにTTX結合活性が認められた。中でもコモンフグの血漿の活性が最も高く,血漿1ml当たり23MUのTTXと結合した。TTX結合物質は可逆的な酸性下ではTTXと解離し,中性下では結合した。すなわちpHによって結合活性を制御可能であった。TTX結合物質はTTXよりもむしろSTXに親和性が高いことが判明した。一方,TTX結合物質はゴニオトキシン群(GTXs)とはほとんど結合しなかった。血漿中に含まれるTTXとSTXの濃度はコモンフグにおいて最も高く,それぞれ1ml当たり1.2〜21.1MU,0〜3.4MUであった。TTX結合物質はTTXやSTXに対して解毒効果を示した。TTX結合物質の添加によってTTX溶液やSTX溶液のマウスに対する毒性が減少したことから,TTX結合物質は生体内においてもTTXやSTXと結合性を保ち,そしてTTX結合物質と結合した状態ではTTXやSTXの毒性は減少するものと推察された。TTX結合物質の役割は不明であるが,STXに対するフグの抵抗性を高める作用を持つとともにTTXやSTXの担体の役割を果して毒の蓄積機構に関与するのではないかと推察された。
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