研究概要 |
マスト細胞は,即時型アレルギー反応を基盤として発症する疾病の病態発現過程だけでなく,炎症および組織修復反応においても,重要なエフェクター細胞として機能する。本研究は,神経成長因子(NGF)の炎症・免疫反応における意義に関する総合的研究の延長線上に位置するものである。即ち,NGFによるマスト細胞活性化機構の詳細を明らかにしようとするもので,1)NGFレセプターの発現と存在証明,2)マスト細胞の活性化誘導とその細胞内シグナルの解析を研究の機軸とした。得られた新知見は以下の如くである。 1)マウスマスト細胞株上には,trkANGFレセプターのみが発現していることが判明した。 2)マスト細胞は,少なくとも二種類の亜型(粘膜型と結合組織型)に分類される。両者の前駆細胞と考えられる培養マスト細胞上にはp75とtrkAの両レセプターが,腹腔マスト細胞にはtrkAのみが発現していることが明らかとなった。 3)NGFがラット腹腔マスト細胞のアポトーシスを抑制することを発見し,トランスフォーム成長因子によるアポトーシス誘導をNGFが抑制する活性を有することを見いだした。この作用はtrkAを介したMAPキナーゼのシグナル伝達系によって発現誘導される。 4)腹腔マスト細胞にNGFを反応させたところ,セロトニンは放出されなかったが,活性化した血小板とともに反応させると,セロトニン放出が確認された。 5)NGFは,血小板由来フォスファチジルセリン存在下で,マスト細胞およびマスト細胞株を刺激し,セロトニンの放出が誘導することが判明した。 以上の研究成果より,NGFがマスト細胞の存在維持とその活性化能を有することが判明した。従って,NGFはマスト細胞関連生体反応を抑制する因子として機能しているものと考えられる。
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