研究概要 |
1.環境ストレスによる光合成器官の高温耐性増大の品種間差異と耐性増大機構:水ストレスや準高温ストレス(38℃)の前処理によって光合成器官の高温耐性(光合成速度とクロロフィル蛍光により判定)が増大した.水ストレスによって葉のABA濃度が顕著に高まり,ABAの葉面散布も高温耐性増大作用を示した.このことから,水ストレスによる光合成器官の耐性増大はABAの作用によるものであり,それは主として光化学系の電子伝達活性の熱安定性の増大によっていると考えられた.これに対して,準高温による高温耐性増大には葉およびチラコイド膜脂質の不飽和度の低下が密接に関係していると考えられた.なお,光合成器官の高温耐性や環境ストレスによるその増大程度には品種間差異はみられなかった. 2.黄化子葉の緑化における高温障害の修復反応:黄化子葉を高温遭遇直後に光照射した場合,46℃までの高温ではほぼ正常に緑化した.48℃では38時間後においてもほとんど緑化しなかったが,高温遭遇後の黄化子葉を28℃・暗黒下に16時間置くと緑化能が80%ほど回復した.これらのことから,黄化子葉の緑化過程は高温障害修復反応の機構解明のツールとして利用できることが示された. 3.根の高温耐性の品種間差異:イオン漏出テスト(ECテスト)とTTC還元テストによる種々の品種の根の耐熱性程度は再生長テストによるそれと一致しなかった.高地温は高気温(いずれも37℃)より生育抑制作用が小さかったが,光合成は高地温によって顕著に抑制された.高地温下では気孔開度は小さくなったが,光化学系はほぼ正常であった.表皮剥離葉でも光合成速度が小さかったことから,二酸化炭素固定系の阻害の可能性も示唆された.また,高地温による生育抑制の主な要因は根のサイトカイニン合成の抑制であることが示された.
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