研究概要 |
Agrobacterium tumefaciens A208菌(nopaline type Ti-plasmidを保有、病原性)にtransposon(Tn5)標識を行い、3つの非病原性変異株、B-119,M-3,M-14株を得た。3つの変異株すべてにおいて、Tn5はTi-plasmidでなく染色体に一箇所ずつに挿入されていた。B-119菌では新規遺伝子acvBにTn5が挿入されていた。一方、M-3菌では既報のchvBに、M-14菌ではchvB遺伝子に挿入されていた。しかし、chvAとchvB遺伝子の機能に関しては確定していなかった。B-119菌を用いacvB遺伝子を、M-3菌を用いchvA遺伝子を分離し、これらの遺伝子の機能の解析を行った。 acvB遺伝子の種々の細菌における分布を調べた。acvB遺伝子は調べたすべてのA.tumefaciensに存在していたが、Rhozobium,Psuedomonas,Bacillusには存在していなかった。このような分布からacvB遺伝子の機能がA.tumefaciensの特有の機能すなわちT-DNAの植物への転換に密接に関係していることが示唆された。またoctopine typeのTi-plasmid上に本遺伝子のhomologが存在することもわかった。本遺伝子産物のAcvBタンパクを大腸菌で多量発現させ、抗体を調製し、それを用いた実験により、AcvBタンパク(47kDa)はペリプラズムに局在し、in vitroでsingle strand DNAに対する結合活性があることがわかった。 B-119菌とM-3菌は非病原生菌であるにもかかわらず、両菌中ではTi-complexの生成までのステップは正常に進行していた。B-119菌は細胞壁のある細胞にはT-DNAを転移できないが、細胞壁のないprotoplastには転移できた。一方、M-3菌は両方に対して、T-DNAを転移できなかった。 A208,B-119,M-3菌を誘導培地(acetosyringon 200uMを含むLS(pH5.5)培地)で培養するとA208とB-119菌では性線毛タンパク(pilin)と推定される19kDaタンパクが外膜に出現したが、M-3菌では出現しなかった。 以上の知見から、acvBとchvA遺伝子は多面性発現遺伝子であり、B-119とM-3菌ではAcvBとChvAタンパクがペリプラズムと内膜から消失するために、T-DNAの宿主植物への移行のchannelと予想される性線毛の変質または消失が起き、非病原性になっているものと推定される。
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