研究概要 |
白血球の血管内皮細胞上でのローリング現象や炎症部位への遊走、リンパ節内高内皮細静脈上での認識現象、血小板の凝集、がんの血行性転移など、免疫系を介する様々な生命現象や病態に深く関与するセレクチン・ファミリー(C-型レクチン)を標的として、糖鎖細胞接着の分子機構を明らかにした。即ち、(1)E-,P-,L-セレクチンに共通する糖鎖リガンドであるシアリル・ルイスX構造中のシアル酸、ガラクトース、フコース、及びグルコサミンを系統的に構造修飾し、シアル酸のカルボキシル基、ガラクトースの4,6位水酸基、フコースの2,3,4位水酸基がE-セレクチンの認識に必須であること、フコースの水酸基がCa^<2+>依存性に直接関与すること、(2)スルファチドとの比較から、カルボキシル基と硫酸基の役割、及びそのカウンターパートとしての塩基性アミノ酸の存在を分子、官能基レベルで解明した。(3)さらに、本年度の大きな成果として、六糖性シアリル・ルイスXのガラクトースかグルコサミンの6位水酸基、又はその両方に硫酸基を導入して、いわゆるキャッピングによるレセプター特異性の制御について新しい知見を得た。すなわち、3a)グルコサミンの6位水酸基が硫酸化を受けると、ヒトL-セレクチンの認識特異性が大きく増強されること、3b)ガラクトースの6位水酸基の硫酸化によって、E-セレクチンへの結合親和性が消失することを世界で初めて明らかにした。従って、セレクチン・ファミリーと糖鎖との接着機構には、フコースを含むカルシウム依存的機構とスルファチドの様なカルシウム非依存的機構、シアリル・ルイスXとスルホシアリル・ルイスXに見られるコア糖鎖の硫酸化によるキャッピングを介するレセプター特異性の制御が、分子及び官能基レベルで行われていることを合成糖鎖を用いて解明することができた。(4)一方、シアロアドヘシン・ファミリー(I-型レクチン)の糖鎖認識特異性を解明する研究の一環として、コリン作動性ニューロンに特異なポリシアロガングリオシドGQ1bαが、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)に対して極めて高い結合親和力を有することを世界で初めて明らかにした。
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