研究概要 |
これまで申請者はCa関連シグナル伝達のシナプス可塑性への重要性に鑑みて,Ca関連セカンドメッセンジャーの一つであるジアシルグリセロール(DG)を燐酸化してホスファチジン酸(PA)に変えるDGキナーゼに注目してその脳内分子多様性を追求してきた.本年度はこれまで解明出来た3種のアイソザイムに加えて,IV型分子の全貌を明らかにすることが出来た.この新たに解明出来た分子はその分子量104kDaで,分子構造は以前の3種の異なりEF-handは持たずにC-terminalにankyrin-domain構造を持っている.この構造は既に報告されているDrosophila網膜特異的DGキナーゼ(rdgA)に類似している.しかし,このIV型は網膜より胸腺と脳にはるかに強く発現している.網膜では内顆粒層の細胞に発現局在して視細胞での有意な発現は認められないので,相同分子が動物種により異なる機能を担うことが示唆された.脳では全灰白質に広く発現し,特に小脳プルキニエ細胞,海馬錐体細胞と歯状回顆粒細胞および嗅球顆粒細胞に強い発現が認められた.また,この分子構造に核移行シグナルを持ち,培養細胞への強制発現によりその翻訳産物は核に局在した.したがって,このIV型DGキナーゼは上記ニューロンでの核内転写翻訳調節に深く関与し,それがシナプス可塑性さらに記憶等の機構に連なることが考えられた.加えて,イノシトールリン脂質(PI)代謝におけるDG産生の前々駆物質PI4リン酸の生成酵素であるPI4キナーゼの分子構造と特性を明らかにした.分子量230kDaと92kDaの2つのアイソザイムの存在が明らかにされ,前者はpleckstrin homology domainを持って膜画分に存在するが,後者はそのdomain構造を持たずに可溶画分に存在する.二者は各々,酵母の同名酵素で分泌能に深く関与することが知られているSTT4とPik1とに高いホモロジーを持ち,培養細胞への強制発現で翻訳産物がゴルジ装置に局在することから,哺乳類細胞でも分泌能に必須の分子あることが示唆される.脳では灰白質に広く発現し,成熟期より胎生期にそれらの発現が強いことから,PI4キナーゼがシナプス形成・可塑を含んだ幼弱ニューロンの分化と成熟機構に必須であることが示唆された.
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