研究概要 |
まず,100例を越える膵癌患者に由来する癌組織を収集し,組織学的に正常細胞の混入が50%以下のものを選び,その癌部と健常部の組織からDNAを抽出した。ひきつづき,全染色体領域にわたりマイクロサテライトマーカーのPCR法による染色体欠失を検索した。また,12個の膵癌細胞株と6個の膵癌原発組織(正常細胞の混入の少ないもの)に由来するDNAを用い,comparative genomic hybridization (CGH)法,fluorescence in situ hybridization (FISH)法により染色体領域のコピー数の異常を検討した。その結果,6か所の高頻度(30%以上)の欠失領域(1p,6q,9p,12q,17p,18q)と2か所の増幅領域(8q,20q)を検出し,これらの領域に癌遺伝子・癌抑制遺伝子が局在する可能性を示唆した。 欠失領域のうち,9pはMTS1,17pはp53,18qはDPC4が欠失の標的遺伝子と考えられた。われわれは,この3か所以外の領域から特に12qを選び,マイクロサテライトマーカーをふやして,さらに詳細な欠失地図を作成したところ,約1cMの共通欠失領域を同定し得た。この領域は既にYACクローン,BACクローンによりカバーしており,現在コスミドへサブクローニングし,コスミドコンティグを作成する作業を進めている。 増幅領域のうち8qはc-mycの領域と重なっていた。また,20qに関しては,コピー数の増加は2倍程度であったが,乳癌でも同領域の増幅が報告されており,共通の遺伝子異常が両者の発癌に関わっている可能性がある。 DNAミスマッチ修復異常の下流に位置する遺伝子異常としてtransforming growth factor(TGF)β receptor type II(RII)遺伝子とinsulin-like growth factor II receptor(IGFIIR)遺伝子における異常の検索を行い,大腸癌,胃癌ではRIIとIGFIIRの両方の異常がみられ,子宮体癌ではIGFIIRの異常がみられるが,膵癌ではいずれの遺伝子にも異常がみられないことを明らかにした。これらの事実から,膵における発癌メカニズムは大腸癌,胃癌,子宮体癌等とは異なっていることが示唆された。
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