研究概要 |
鉛に暴露されると早期に且つ特異的にポルフィリン代謝異常が発現するが,その発現の程度にはかなりの個人差(感受性差)が存在する.そこで,この様な感受性差をもたらす内部環境要因として如何なる要因が考えられるかを段階的に解析した.内部環境要因として特に性ホルモンに関連する性差,微量元素(Cu及びZn),ビタミン類(E及びβ-カロチン),生体防御関連酵素(SOD及びグルタチオンペルオキシダーゼ)に注目した. 昨年度において,鉛作業者におけるポルフィリン代謝異常の発現には性差が見られることを報告したが,この事実を裏付けるために,同様の研究を例数を増やしながら継続して行った.中国において鉛取り扱い作業に従事している労働者,男女,計約300名より生体試料(末梢血及びスポット尿の一部)を,内外の関係者の協力を得て収集し,分析に供した.その結果,血中鉛濃度から推定して同程度の鉛暴露レベルであったにも拘わらず,血漿並びに尿中ALA濃度は,男性よりも女性の方が1.5倍高値を示した.更に尿中コプロポルフィリン排泄量は女性の方が3.5-5.0倍高値を示した.これらの結果は,「女性は男性よりも鉛暴露に対する感受性が高い」という仮説を強く指示するものである. 一方,得られた一部の試料について,微量元素(Cu,Zn)及び微量栄養素(ビタミンEβ-カロチン)を測定し,男女の鉛作業者間で比較したが,一定の傾向をつかむことは出来なかった.また,上記の生体防御関連酵素の活性についても,ポルフィリン代謝異常発現の程度との間に有意差を認めることは出来なかった.
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