研究概要 |
我々はTheiler's murine encephalomyelitis virus(TMEV)をSJL/Jマウスの脳に接種し,多発性硬化症の動物実験モデルである免疫性脱髄疾患(TMEV-IDD)を作成することに成功した.さらにTMEV接種時に抗ICAM-1抗体と抗LFA-1の両者を投与することによりTMEV-IDDが抑制されることが明らかとなった.これらは抗接着分子抗体が補助シグナルをブロックすることによりアナ-ジ-が成立し,TMEV抗原特異的免疫寛容が誘導された結果であることが考えられる.さらに我々は個々のcapsid proteinや構造非依存性抗体エピトープを含む合成ペプチドを用いて,タイラーウイルス誘導による免疫性脱髄性疾患(TMEV-IDD)における抗体の役割を検討した.VP1とVP2のfusion proteinで予めマウスを免疫するとその後のタイラーウイルス誘導による免疫性脱髄性疾患の発症を抑制するが,VP3のfusion proteinで予めマウスを免疫してもその後のタイラーウイルス誘導による免疫性脱髄性疾患の発症を抑制しなかった.fusion proteinで予め免疫し,その後のタイラーウイルス誘導による免疫性脱髄性疾患を発症しなかったマウスでは免疫原に相当するcapsid proteinni対する抗体が著明に高かった.これとは対照に,in vitroでウイルスを効果的に中和できる構造非依存性エピトープA1C(VP1262-267)に対する抗体はTMEV-IDDの進行とともに上昇した。さらに個々の抗体エピトープを含む合成ペプチドで免疫することによりエピトープに対する抗体はTMIV-IDDを特異的にかつ効果的に防御することが明らかとなった.以上より,ある特定の構造非依存性エピトープに対する抗体はTMEV-IDDを防ぐことが明らかとなり,この予防効果はウイルス感染の初期に限定される可能性が示唆された.
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