研究概要 |
臓器移植の究極の課題は,ドナー特異的な免疫抑制状態(免疫寛容)誘導法を確立することである.肝移植には免疫寛容誘導能があることが知られていたが,その分子生物学的メカニズムを明らかにするためには,マウスを用いた同所性肝移植モデルが不可欠である.マウス肝移植モデルはこれまで世界で一施設から報告されているのみであったが,われわれは本助成費を受けて,1997年3月までに915例のマウス同所性肝移植を行い,最近14カ月間で手技的成功率97%を得ており,本邦で初めて,世界では2番目に本モデルを確立した. その結果,11種類の近交系マウスを用いて48種類の異系間移植を行ったが,いずれにおいても移植肝は生着し,ドナーの皮膚移植により完全な免疫寛容の誘導も確認された.同様の結果が,実験用マウスとは全く異なる遺伝的背景を持つ野生株マウスにおいても成立することも確認され,マウス同所性肝移植は免疫寛容誘導メカニズムを解明するうえで最適な実験モデルであることが明らかとなった. まず,本モデルを用いて,Starzlらが免疫寛容のメカニズムとして提唱したミクロキメリズムの意義をRT-PCR法と共焦点レーザー顕微鏡により検討した.その結果,ミクロキメリズムは移植後2〜3週間は成立していたが,その後消失することが確認され,ミクロキメリズムは免疫寛容の原因ではなく,結果であることが明らかとなった. 一方,Flowcytometryにより,移植肝内にドナータイプとレシピエントタイプのMHC class I抗原が共に陽性となるdouble-positive cellの存在を明らかにするとともに,RT-PCR法により移植肝での可溶性MHC class I抗原の産生を明らかにした.表面抗原の解析からdouble-positive cellはレシピエント由来のclassII陽性細胞が,移植肝内で産生されたドナータイプの可溶性抗原をトラップしたものと考えられ,その細胞種としてpremature dendritic cellの可能性が示唆された.以上より,可溶性MHC class I抗原と移植肝内の特異的細胞種とのinteractionが免疫寛容誘導のメカニズムとして重要であると考えられた.
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