研究概要 |
現在までヒトの膵癌細胞株および切除手術標本を用いて膵癌の浸潤、転移過程における特異性を分子生物学的手法を用いて解析してきた。1)手術により得られる標本を用いて,膵癌におけるc-K-ras遺伝子,c-fos遺伝子の過剰発現を明らかにした.これらは癌化や細胞増殖と強く関連が示唆された.2)ヒト膵癌細胞(PANC-1,MIA PaCa-2,BxPC-3,AsPC-1)において,コラーゲンやフィブロネクチンなどの基底膜構成成分に対するリガンドであるCD44が過剰に発現しており,CD44が膵癌の旺盛な基底膜浸潤に係わることを明らかにするとともに,抗CD44抗体による基底膜浸潤抑制の可能性を明らかにした.3)ヒト膵癌細胞ではSle^xに比しSLe^zの糖鎖抗原が優位に発現していることを明らかにするとともに,膵癌細胞の血管内皮細胞への接着,浸潤が抗SLe^z抗体および抗ELAM-1抗体により抑制されることを示し,膵癌の血行性転移過程における制御の可能性を明らかにした.4)癌腫の原発あるいは転移巣形成期の血管新生に重要な役割を果たす成長因子b-FGFは膵癌の浸潤過程において濃度勾配依存性にその基底膜浸潤を増強することを明らかにした.また,ハムスターBOP膵癌肝転移モデルでは,転移巣におけるb-FGFの発現がその腫瘍容量の増大にともない増強することを明らかにした.5)HGFレセプター/c-METはMIA PaCa-2を除くすべての膵癌細胞に発現がみられ,HGFの浸潤・増殖促進作用はc-METを発現する細胞に特異的に作用していること,また、HGFがケモアトラクタントとして膵癌の浸潤・転移の方向性を規定していることを明らかにした.6)ハムスター膵癌の高転移株KH-PCと低転移株HapTlの検討で,KH-PCは,肝抽出液あるいは門脈血清の環境下において浸潤・増殖能が促進され,一方,HapTlは肝抽出液で浸潤・増殖の促進がみられず,転移の標的臓器における微小環境が血行性転移における臓器特異性を規定している可能性を示した.
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