研究概要 |
微小な病変での遺伝子変異の有無は,これまでmicrodissectionとPCRによって検討されてきたが,細胞単位での変異の有無を知ることは不可能であった.細胞単位での遺伝子変異をin situで観察することが可能となれば,癌の発生における遺伝子変化と組織形態学的変化に関して極めて重要な知見が得られるであろう.最近開発されたin situ PCRは,PCRとin situ bridizationを組み合わせた手法で,単一または少ないコピー数の遺伝子のin situでの検出に期待がもたれている. in situ PCRは,遺伝子やプライマーが異なれば大きく条件が変わると考えられており,また,その条件を決定する要素が非常に多岐に亘る.3年間の研究で,標本の固定法,前処置法,プライマーの選定,PCRの条件,in situ bridizationの条件、およびシグナルの検出(染色)法を、一つ一つ決定してきた。その結果,細胞株Calu-l(K-rasコドン12変異株)およびH460(野生株)の細胞浮遊液を用いた実験で,95%エタノール固定16時間,0.1-1.0μ g/dlプロテイナーゼK処理37度15分,40サイクルのPCR,10%緩衝ホルマリンによる後固定16時間in situ bridization後の厳密なwashingにより,単個の細胞内でのK-rasコドン12の変異をin situ PCRを用いて検出することに成功した.一方,プローブを用いないdirect in situ PCRは,操作が簡便で迅速な処理が可能であるが,非特異的染色が強くシグナルは検出不能であった.さらに,制限酸素とDNA分解酸素を用いて,非特異的染色の本態を明らかにすると共に,direct in situ PCRを用いた検出には限界があり,点突然変異の検出は困難であることを明らかにした.
|