研究概要 |
エストロゲンは骨代謝を強く支配しており(エストロゲン・ドグマ),女性に対し一生を通じて骨保護作用を示す。妊娠中は高エストロゲン血症にあるので,妊娠中に骨は保護され骨吸収は抑制され,産褥低エストロゲン血症に加えて高プロラクチン血症にあるので、骨吸収の促進が起こっていると想定されていた。しかし、我々の骨代謝マーカーの分析及び骨量の解析により、妊娠中には骨吸収が促進され、産褥はむしろ骨吸収は抑制された状態になっていることを明らかとした。非妊時で骨吸収が亢進している時は、末梢血単球よりのサイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-α等)の分泌が亢進しており、エストロゲンを投与するとサイトカインの分泌減少がおこり骨吸収が抑制される。その視点より、末梢血単球よりのサイトカイン分泌を検討したところ、妊娠中(骨吸収亢進状態)では、エストロゲンが高濃度にあるにも関わらずサイトカインの分泌亢進があることを見いだした。即ち妊娠中は高エストロゲン状態にあるにも関わらずサイトカインの過剰分泌が生じて骨吸収がおこっているのである。極めてパラドキシカルな現象といえる。この現象は非妊時とは異なった骨代謝調節機構が妊娠産褥に存在していることを意味しており、新たな展開が期待される。
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