研究概要 |
歯科診療所(歯科医院)で顎関節疾患の有用な診断情報を得ることを目的に,パノラマX線撮影における顎関節の画像形成および実際の撮影に関する基礎的な事項について検討した。検討事項は,鮮明な像を得るための適切な実効断層域の位置,X線束の入射方向(X線束の回転軸の位置)および2方向撮影の必要性である。 まず左右の実効断層截面の位置について検討した。848名のX線写真を計測した結果,15歳以上のヒトの下顎頭間距離の平均値は男女ともにどの世代でも一定しており,179名の男性669名の女性の平均値はそれぞれ105.7(SD5.9)mm,100.8(SD4.7)mmであった。このことより標準的な実効断層截面を設定するならば,極端に顔面骨格の小さな被写体あるいは大きな被写体用を含めて,左右の断層截面距離を96,101,106および111mmの4種類準備すればよいことが分かった。また実効断層截面の前後的位置は別の計測により耳孔より10〜13mmの位置を中心に設ければよいことが明らかになった。 次に乾燥頭蓋骨11体を用いX線入射角度について検討した。その結果,前頭面に対して30°の水平的角度で,切端咬合位にある下顎頭に前下内方からX線が入射するのが適切であることが明らかになった。 既製のパノラマX線装置に駆動を制御するROMを新しく作成し,剖検下顎頭を対象に2方向から撮影し,撮影方向の違いによる下顎頭異常像の検出率を求めた。その結果,パノラマ撮影装置のみで顎関節の診断情報を得るには少なくとも,下顎頭長軸の方向と水平的に30°の前下内方からの撮影が必要であることが明確になった。 X線の垂直的入射角度,像の拡大率と照射野の大きさおよび実際の撮影手技と再現性が今後の検討課題である。
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