研究概要 |
近年,動物代替運動の観点から改めて注目されている細胞毒性試験について,新たな歯科材料の試験法を目指して,2つの試験法の有効性を調べた. a.ストレス蛋白質試験 種々の化学物質から構成される歯科材料を細胞に対する刺激と位置づけ,金属,レジン,セラミックス,酸および薬液等の歯科材料関連物質により,細胞内に合成誘導されるストレス蛋白質(hsp70)の蓄積量を調べた.その結果,従来からの細胞生存率での細胞毒性試験法の結果と異なった挙動を示し,歯科材料からの刺激物質の細胞における反応性を低濃度で早期に把握できることがわかった. b.組織モデル試験 従来からの単層培養による細胞培養法と異なり,in vitroにおいて3次元的に再構築された組織モデルを用いて,通常行われるエンドポイントに加えて,化学物質の作用後に細胞回復の概念を導入した試験も新たに試みた.その結果,単層培養法による細胞毒性試験法に比較して,溶媒の影響を排除できた.また,生体における複雑な毒性機構を解明する上で,類似の細胞毒性を示すと考えられていた材料でも,細胞回復の期間を設けることによって,より多面的な毒性情報の把握ができることがわかった. 以上の結果から,本研究で調べた試験法は化学物質に対する細胞反応を把握する上からは,有効ではあるものの,ストレス蛋白質試験は細胞毒性試験としてはなじまないことがわかった.一方で,組織モデル試験は,新しい歯科材料の生物学的安全性の試験法たり得ることがわかった. さらに最近の化学物質使用の新たな生物学的局面についても考察を加えた.いわゆる内分泌撹乱化学物質についてはヒトをはじめとする生命体にとってその存続に深刻な影響を及ぼす危険性のあることが指摘されているものの,未だ不明の点が多く,生物学的安全性の試験実施上からした従来の枠組みの有効性についても明らかでない.歯科医療には多くの化学物質が歯科材料として使用されている実状からしても,今後にその実体究明の必要性はきわめて高い.
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