研究概要 |
Background:長時間手術は全身的な血液凝固異常を引き起こす要因になると考えられるが,これまで長時間手術における凝固線溶系の推移は明らかにされていない.本研究は分子マーカーを用いて長時間手術での凝固線溶系の推移と術中の抗擬固療法としてのヘパリン持続静注の効果を明らかにすることを目的に行った. Methods:対象は10時間以上を要した血管柄付遊離皮弁移植を含む悪性腫瘍手術を行った20名の患者とし,抗擬固療法を併用しなかった患者10例(対照群),ヘパリン投与を行った患者10例(ヘパリン群)の2群に分類した.ヘパリンは顕微鏡下手術開始時より麻酔終了時までactivated partial thromboplastin time (APTT)が50-70sec.となるように持続静注した.麻酔開始時から終了時までprothrombin time,APTT,fibrinogen,antithrombin III,凝固マーカーとしてのthrombin-antithrombin III complex,fibrinopeptide A,prothronbin fragment 1+2,soluble fibrin monomer complex,線溶マーカーとしてD-dimer,plasmin a2-plasmin inhibitor complex,血漿ヘパリン濃度を測定した. Results:対照群全例で手術経過に伴う凝固マーカーの著しい増加を認め,3例が線溶亢進を示した.ヘパリン群ではヘパリン投与後の凝固亢進の抑制効果が明らかで,3例に認めた線溶亢進の程度も対照群に比較してはるかに軽度であった.血漿ヘパリン濃度はほぼ0.2U/ml以下で,APTTとの間に弱い相関を認めた. Conclusions:長時間手術において手術開始早期より進行する凝固線溶活性の亢進は明らかであり,術中の抗凝固療法としてのヘパリン持続静注はきわめて有用であると結論できる.
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