研究概要 |
歯科矯正学的歯の移動は,痛みや不快感を引き起こす。歯に矯正力を加えると,歯根膜内に炎症反応が起こり疼痛に関与しうる物質が放出される。ところで,前早期遺伝子c-fosは,核タンパクFosを誘導する。シナプスの活性化後の脳におけるFosの誘導は,ニューロンに特異的であり,c-fosの活性化は,脳におけるニューロンの経路を調べる指標として用いられることが報告されている。そこで,我々は,脳におけるc-fos発現に対する実験的歯の移動の影響を,Fosに対する免疫組織化学を実施することにより調べた。ラットの片側上顎臼歯間に歯科矯正用エラスティックモデュールを挿入した。実験的歯の移動開始24時間後,Fos免疫陽性ニューロンが,侵害情報の伝達路を含むと考えられている三叉神経脊髄路核亜核(同側)およびlateral parabrachial nucleus(同側および反対側)に出現した。また、実験的歯の移動後、実験群のラットの前脳において,扁桃中心核,視床下部の室傍核および視床の室傍核にFos免疫陽性ニューロンの発現が認められた。発現が認められたニューロンの数は,対照群と比較して,同側の扁桃中心核で639%,反対側の扁桃中心核で644%,同側の視床下部室傍核で292%,反対側の視床下部室傍核で307%,視床の室傍核で264%とそれぞれ有意の増加が認められた。これらの結果から、実験的歯の移動により惹起される侵害情報は、中枢神経系の様々な領域に伝達,制御されることが示唆された。
|