研究概要 |
平成7年度は、高毒性のコプラナーPCBである3,4,5,3′,4′-pentachlorobiphenyl (PenCB)を投与によって、顕著に発現量が低下した3種の酵素のうち炭酸脱水酵素(CA)とアルコール脱水素酵素(ADH)は、亜鉛酵素であることから、PenCBが細胞内亜鉛ホメオスタシスに影響するという申請者らの作業仮説が支持される結果となった。平成8年度は、PenCB投与によって発現量の顕著な低下が示唆されたラット肝細胞質ゾルの亜鉛酵素、ADHおよびCAについて更に詳細に検討した。 1.ADHの酵素活性を測定した結果、PenCB処理群において有意に低下していた。このことは、本研究で産生したADHに対する特異抗体によるイムノブロットの結果からも支持され、活性の低下が酵素タンパク質の発現の抑制によることが明らかになった。最近、ADHがトリオースリン酸の代謝に関与することが示唆されていることから、その寄与の程度をADHの特異的阻害剤を用いて検討した。グリセルアルデヒド3ーリン酸からグリセロール3ーリン酸への代謝へのADHの寄与は約30%であることが明らかになった。PenCBは、糖新生の阻害を引き起こすことが知られているが、平成7年度に明らかにした肝アルドラーゼBの著しい抑制と併せて、中間代謝への影響が懸念された。そこで、トリオースリン酸代謝に関わる一連の酵素群の活性いついても検討を行い、これらの活性がいずれもPenCB処理によって有意に減少していることを見出した。 2.CA isoformであるCA IIIに特異的な抗体を用いて行ったイムノブロットの結果から、酵素タンパク質の発現の抑制が起こっていることが明らかになった。CA IIIは、最近チロシンホスファターゼとして機能することが示唆されており、この結果はPenCBによるシグナルトランスダクションへの影響として非常に興味深い。
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